2ボタンマウスを買ったけど… 1998.1.21

 Macintoshに付属しているマウスには、ボタンがひとつしか付いていない。MacOSではひとつしか使わないから、当然といえば当然だが。しかしBeOSでは、「右クリック」できればTrackerでの操作が右手だけでできて便利らしい。私は「便利」という言葉に人一倍敏感だから、ずっと2ボタンマウスのことが気になっていた。だが、MacOS用の2ボタンマウスは大学生協ではほとんど見掛けたことがなかったし、他の店に買いに行く時間もなかったから、それは私にとってずいぶん遠い存在だった。

 ところが、である。今日大学生協に行ってみると、MacOS用の2ボタンマウスが棚に置いてあるではないか。そのマウスの名は、サンワサプライの「COMFORT MOUSE」。値段も手ごろだし、何と言っても憧れの2ボタンマウスだ。欲しくないはずはない。

 私は一瞬の逡巡の後、そのマウスをレジに運んだ。その時の私は、こう信じて疑わなかった。

 「このマウスは、私のBeOSライフを、もっと快適なものにしてくれるに違いない」と。

 家に帰ると、私はさっそくこのマウスを7600/200に繋いだ。そしてマシンを起動する。まずはMacOSだ。メインのOSで使えるかどうか試さねばなるまい。

 MacOSで使ってみると、このマウスは非常に快適であった。純正のものに比べて底面の摩擦が大きいのは難点だが、クリック感は良好で、ポインタの動きは滑らかだ。元のマウスより格段に使いやすい。

 よし、幸先のいいスタートだ。しかし油断は禁物。ここからが正念場だ。次は本命、BeOSで試さねばならない。

 いつものように「BeOS Launcher」でBeOSを起動する。はやる気持ちを抑えつつ、「Be」の文字が表示され、それがデスクトップに入れ替わっていくのを凝視する。そしてTaskBarが現れるやいなや、「Mouse」パネルを開いて2ボタンに再設定。これでいけるはずだ。他にやり残したことはない。

 一度深く息を吸い込み、そして吐く。大丈夫だ。さあ、右クリック…!

 カチリ。

 次の瞬間、私の視線は「Mouse」パネルに釘付けになっていた。

 「なぜだ、なぜ『1』ボタンがハイライトされているんだ?」

  焦ってファイルやフォルダを右クリックしてみるが、反応はいつものクリックと変わらない。そして間違いなく、「Mouse」パネルのボタン表示は、そのクリックが「1」ボタンのものであると告げていた。

 おかしい、そんなはずはない。これはBeOSではないか。MacOSではないのだ。複数のマウスボタンに対応したいたはずだ。これはきっと悪い夢に違いない、夢なら覚めてくれ…

 何度も何度も再起動を繰り返す。何度も何度も「Mouse」パネルを設定し直す。しかしダメだ。どうしても2つ目のマウスボタンが「1」ボタンとして認識されてしまう。こんな馬鹿な、なにかの間違いだ、どこか設定をしくじったに違いない。

 しかし度重なる再起動と再設定は、それが夢や間違いではないということを、それが現実であるということを、私に認識させずにはおかなかった。

 激しい悔恨と慚愧、そして自嘲の念が脳裏を駆け抜けていく。なぜ私はこんなものを買ってしまったのか。こんなことならパイオニアのキーボードを買っておけばよかった。よく見ればマウスのパッケージには「左右とも純正互換」と書いてあるではないか。最初からどちらも第一ボタンだったということか…

 キーボードの横に置くと白さいやますマウスをぼんやりと見ながら、私はこう呟いていた。

 「なぜお前には、ボタンが二つあるのだ?」と。

  (終劇)


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